夢の絵本―全世界子供大会への招待状

ゆめのはじめとゆうものは凡てのことのはじめなり
茂田井武のノートより :解説より)

毎日毎日、私はおだやかな幸せな日を送っていました。
朝早くから陽が西に沈むまで好きな絵をかいてたのしく暮らしていました。
一杯の水でも、それが牛乳にも思われ、蜂蜜にも思われるので、甘い甘い舌ざわりがするのです。可愛がっている猫のジグマは、ちゃんと私の心を知っているので、私が、「ホラ、おいしい牛乳だよ」と言って、お皿に水を入れてやってもよろこんでなめるのです。
アー、ところが、あの親族会議とかいって親類の人たちが集まり、私の家に昔から伝わっている財産をしらべたりする嫌な習慣のため、私はすっかり不幸な身の上になってしまいました。
昔から伝わっている宝物のお皿が五枚あったはずなのに、どうしたのか三枚しかないことが皆の前にさらけ出されて、私は皆にいじめられました。
「早く行って探して来い」と皆が私に言うのでした。

これは、物語の導入部、いちばんさいしょのところ
ここの挿絵がすばらしくイイのです!
親類たちに叱られている主人公の表情、
うつむいて反省しているふりをしながら、
アー・ほんとイヤんなっちゃう、早く終わらないかナァという
感情がはっきりあらわれていて、吹きだしてしまいます
ぜひ本を手にとって確認してみてください

ある街角の店先に大きな水盤があり、その上に小さい鹿が一匹よこになっていました。どうしたのか鹿はじっと目を閉じ、息をするように小さい口を開いて、こうくり返しくり返して言うのです。
イツカ ドコカデ ウツクシイ モノガ ウマレタ
すると、小鹿の声は細い糸のような煙となって、ユラユラと空へ昇ってゆきます。細い糸は、赤と黄と青と緑と紫の五色の糸の煙で、もつれ合いながら高く空へ昇ってゆきます。女の人が一人、黙ってみつめておりましたが、低い声で小鹿の言葉を真似して言いながら、その言葉の後に、
ヒ ト ニ シ ラ レ ズ ニ
とつけ加えて向こうへ行ってしまいました。五色の煙の糸は、その後いつまでも私の目に美しく浮かぶのです。

これは道中のうつくしいエピソード
ほかにモダンなエピソード
シュールなエピソード ユーモラスなエピソード
いろいろあって万華鏡的で素敵です
ぜひ本を手に‥ (以下略) 

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童話では、「365日の珍旅行」 というのも不思議と狂気にみちていて
すばらしくおもしろいのですが、
これは「茂田井武画集 1946→1948*1の中に収録されているものの、
単独では発売されていない*2のです
(痴呆症のおばあさんの描写がかなりきわどいので、単独で出版はむずかしいのかな‥)

*1:茂田井武画集についても書こう。好きな人には宝ものになります。間違いなく。2万円は覚悟がいるけど、それだけの価値はあります。だって茂田井ワールドが!満喫できるんだもん。ただ、髪質があんまりよくないので、大事にしてるつもりでも黄ばんできてしまうのがせつない

*2:すごろくのみ、トムズボックス他で販売しているもよう